基本ブレーキシステム技術部

稲田 雄一郎

2007年入社 機械工学専攻

※部署名や役職名などは、取材当時のものです。

基本ブレーキシステム技術部

稲田 雄一郎

2007年入社 機械工学専攻

※部署名や役職名などは、取材当時のものです。

ブレーキのプロとして。
ブレーキだけにとらわれず。

自動車用の接着剤を研究していた大学時代、先輩からクルマを譲り受け、大の運転好きに。ある日の走行中に急ブレーキで危険を感じ、ブレーキの設計に関心を持つ。現在はブレーキシステムのハード設計担当として、車両全体への影響を意識して設計に当たっている。

Section.01

ブレーキの要求性能確保のため、車両設計に踏み込む。

入社前から憧れていたテストコースでの実車評価を初めて経験したのは、配属直後のこと。その後も、多い時期で1週間に2~3日はテストコースに出ていました。これは設計業務に不可欠な経験で、キャリパーやブレーキブースターといったブレーキ構成部品の設計の違いによって、どのように感じ方が変わるのかを徹底的に体に覚え込ませました。

現在は、ブレーキシステム全体のハード設計を担当しています。どのようなクルマにしたいかという前提条件からブレーキの「味付け」を考え、各部品の耐久性や摩擦係数・油圧ロス・許容できる寸法誤差といった仕様を決め、各部品の設計部署に指示を出す役割です。キャリパー、ブレーキブースター&マスタシリンダー、制御ユニットという3種類の機能部品に対して、それぞれ20~30点の部品がありますが、そのすべてに対する仕様決定を背負っています。そのため各部品の知識をある程度持っていなければ、求められるクルマの乗り味に対して部品をどう設計すべきか、試乗して違和感がある場合に何をどう変えればいいのかが判断できません。体感で覚えた知識があるからこそできる仕事といえます。

Section.02

インド人ドライバーの気持ちになって実現した別仕様。

これまでで最も大きな達成感を味わえたのは、入社6~10年目に担当した案件です。ブレーキに対する考え方は国によって違い、たとえば日本よりも高い制限速度が設定されている欧州では効きが重要になり、高地で起伏の激しい南米では熱性能が重視されます。北米・中国以外の全世界に向けたその車種では、ほとんどの国の要求を同一仕様のブレーキシステムで満たせたのですが、インドだけは事情が違いました。1台に大勢の人員と大量の荷物を載せ、激しい渋滞路を走行するため、フル積載時でも即座に効く強力なブレーキが求められたのです。現地からの要求もあり、インド向けに別仕様のブースターが必要だと考えましたが、その場合、部品設計の労力や生産設備のコストが生じるため、関係部署の同意が不可欠。

そこでインド人スタッフの来日時にテストコースで実車に試乗してもらい、事細かに要望を聞きました。その経験と、彼らに見せられたインドの渋滞の映像から得たリアルな情報を駆使して、自分自身がインド人になったつもりで、実感を込めて関係部署に必要性を説きました。その結果、関係部署の了解を得られ、現地に求められるインド専用仕様のブースターが実現したのです。

Section.03

つくってみて、体感して、クルマ全体を考え提案する。

モノづくりの過程では、カーメーカーと意見がぶつかることもあります。それは決して悪い意味ではなく、お互いがプロとして、「いいクルマにしたい」という強い想いを伝え合うからこそ。たとえば「ペダルの踏み心地を重くしたい」という要求に対して、私は「女性ドライバーには重すぎて、ブレーキが効きづらい」と主張。そんな場合は、要求通りのものと、軽くしたもの、両方を試作して社内で検討し、よりよいと考えられる方をアドヴィックスの意見として提案します。開発に携わるメンバー内でも意見が分かれるのだから、市場に出れば、人によって感じ方が異なるのは当然。

だから実際にモノをつくり、実際のクルマに載せ、違いを体感して確かめることを大切にしています。その結果、カー雑誌などで「ブレーキのフィーリングが抜群にいい」と高く評価されたときの喜びは格別です。