モータースポーツ

サーキットもピットも職場。
勝負の世界で分かち合った喜び。

水野 雅仁

フリクションマテリアル開発部部長 1988年入社 電気工学専攻

市販車向け、レースカー向けの摩擦材の開発に取り組むフリクションマテリアル開発部を率いる。モータースポーツの仕事に長く関わり、レースの現場をつぶさに見てきた豊富な経験を活かして、若手エンジニアをリードする。

杉浦 茉奈美

フリクションマテリアル開発部2013年入社 有機化学専攻

大学では、無機材料と有機材料を複合した新素材を研究。同じ無機と有機の材料でつくられたブレーキパッドの開発に興味をもち、アドヴィックスへ。入社後は、パッドの摩擦現象などを研究。2017年から現在の仕事。

※部署名や役職名、文中の大会成績や受賞歴などは、取材当時のものです。

体にズッシリと響くエンジンの轟音。手に汗を握る首位争い——。モータースポーツは、今なお多くの人びとを魅了し続けています。アドヴィックスは、地方選手権の「FIA-F4」、市販車ベースの「スーパー耐久レース」「GAZOO ワンメイクレース」他、さまざまなレースに、キャリパーやブレーキディスク、パッドなどブレーキのキーパーツを供給。モータースポーツとの関わりを深めています。キーパーツのひとつである摩擦材の開発を手がけるのは「フリクションマテリアル開発部」のエンジニアたち。社員有志による活動とは異なり、業務としてレーシングチームをサポートするチームがアドヴィックスにはあります。

パーツ開発で勝利に貢献。
実感した仕事の喜び

2017年にアドヴィックスがサポートしたモータースポーツの中で、最も話題を集めたのは「スーパー耐久レース」です。アドヴィックスがキャリパー、ブレーキディスク、ブレーキパッドを供給する「TOYOTA Team TOM'S SPIRIT 86」が、ST-4クラス全6戦のうち5戦で首位を獲得。シリーズチャンピオンに輝いたからです。総合優勝が決まった時の記念写真には、TOM'S SPIRIT のチームの一員として、パーツ開発で勝利に貢献したアドヴィックスのエンジニアの姿も。

その中の一人、ブレーキパッドの開発を担当した杉浦茉奈美にとっては、勝ち負けが明確に分かれる世界で技術をきわめる開発の仕事の面白みをあらためて実感した瞬間でもありました。「TOM'S SPIRIT といえば、モータースポーツファンにとって憧れの存在。その方たちと気持ちをひとつにしてレースに臨み、喜びを分かち合えたことも、最高に楽しい時間でした」(杉浦)

総合優勝にも一役買ったブレーキパッドは、手のひらに乗るほどの小さな部品。それが時速200キロ以上の猛スピードでサーキットを疾走するレースカーを操る力を秘めているとは、容易に想像できません。「ブレーキパッドは、金属や研削材、潤滑材といった10~20種類の材料を混合し、高温で熱して焼き固めてつくります。イメージとしては、“お好み焼き”の作り方に近いかも(笑)。具を混ぜて、形を整えて焼き固め、表面を加工して出来上がり。ブレーキパッドも、同じような手順でつくっていくんです」(杉浦)。材料を混合するのに1日、熱で焼き固めるのに1日、さらに塗装加工で1日の計3日で、1つのサンプルができあがります。

無数にある変動要因。
試行錯誤の連続だった開発現場

ブレーキパッドは、開発も一筋縄ではありません。レース用ともなればなおさら。数十種の材料の中から要求を満たす最適な組み合わせと配合量をいかに見つけ出すかが、鍵を握ります。
「いろんな配合を試し、試験機でμ(摩擦抵抗)を確認します。思うような特性が出ないと組み合わせや配合比率を微調整して、また実験。それを何度も繰り返して完成度を高め、シーズンオフのテスト走行でドライバーにブレーキフィーリングを確かめてもらいます。原料の配合は、比率を1%変えるだけで特性が大きく変わるほどデリケート。しかもレースでは、サーキットの路面やタイヤとの相性など変動要因も無数にあるため、これらを配慮しながらいかに配合設計するかがポイントになります。」(杉浦)。スーパー耐久レースは、年間6戦。その1戦ごとに、フロント・リアそれぞれ5種類ほど材質の異なるパッドを用意して本番に臨みます。

本番では、前日に現地入り。用意した「効き」の違う数種のパッドをテスト走行で試してもらい、ベストな組み合わせを決定し、予選と決勝を戦います。「最後の調整で大切なのは、ピットに戻ったドライバーのコメントです。ドライバーが発するひとつひとつの言葉の意味を正しく理解し、どのパッドをどう組み合わせるのがベストかを見極めるのもエンジニアの力量です」(水野)。

いざレースが始まると、チームの一員としてピットで待機。選手交代でドライバーが戻ると、いつものようにブレーキのフィーリングを聞き込みにいきます。「ピットは、クルマに携わるエンジニアでも簡単には立ち入れない聖域。タイヤ交換でドドドドッと音が響き、クルーが忙しく走り回る姿を近くで見ていると、モータースポーツという勝負の世界に携わっている実感が湧きます」(杉浦)

レースで得た成果は、
次世代のブレーキ開発に活きる

TOM'S SPIRITの優勝で幕を閉じたスーパー耐久レース2017年シーズン。勝利に一役買ったアドヴィックスの技術力が改めて評価され、新たなオファーも多く寄せられています。
「名だたるレーシングチームとコラボする狙いは、アドヴィックスの技術力の高さをアピールすることだけでなく、エンジニアが経験を磨き、将来の技術向上につなげるためでもあります。これから自動運転がより身近になる時代、ブレーキは単に減速・停止するだけでなく、安全・環境・快適をトータルで考えたものであるべきです。社員がローテーションをしながら、スポーツカー、軽自動車からミニバン、そして電気自動車(EV)まで、幅広い車種の経験を積むことで、次世代の技術開発に活かしていけたらと考えています」(水野)