技術紹介

ADVICS TECHNOLOGY Vol.01 ブレーキを使ってクルマを曲げる、制御する予防安全システム「ESC」とは

最も進化した予防安全機構

「私たちは、ブレーキを使ってクルマを”曲げて”いる」とはアドヴィックス技術役員のセリフだが、この言葉通りESC(Electronic Stability Control)は、従来のブレーキの概念を大きく越えるシステムだ。
一般には「横滑り防止装置」と訳されているため、その語感から補助ブレーキのようなイメージを抱く人もいるだろう。確かにスピンやアンダーステアを防止するシステムではあるが、実際にESCがやっている仕事はもっと幅が広い。
一般にクルマの安全と言えば、エアバッグやシートベルトなど、事故発生時の被害を軽減する衝突安全装置が思い浮かぶ。しかしESCや、その先輩であるABS、TCSといった予防安全システムは、事故発生そのものを未然に防止するのが役割だ。
この予防安全の技術では、まず止まる際の安全=ブレーキ時のタイヤのロックを防止するシステム=ABS(Antilock Brake System)が生まれた。次に、走る際の安全=アクセル時のホイールスピンを防ぐシステム=TCS(Traction Control System)が登場した。
そして曲がる際の安全=ハンドル操作時の安全確保だが、ここで誕生したのがESC。予防安全システムの最新の技術である。

常時クルマをモニタリング

通常は、タイヤが路面をしっかりグリップしていれば、事故が起きることは少ない。しかしタイヤの摩擦係数には限界がある。たとえば濡れた路面や雪道でカーブを曲がろうとする時、あるいは危険を避けるための急ハンドル。そんな時にタイヤは接地摩擦力を失い、思わぬ方向へ滑る。これが大きければアンダーステアやスピンとなり、事故につながる。そこでこの徴候を1/100秒単位でとらえ、瞬時に自動的にクルマの姿勢を立て直すのがESCの役割だ。したがってその働きは、ドライバー自身にも感知されないことが多い。
ブレーキを踏んでから作動するABSとは異なり、ESCは常にクルマの状態をモニタリングしている。ESCが見張っているのは、進行方向(運転者の意図)に対する実際の車両の動き。ここでズレを検出すると、ESCは自動的に各車輪のブレーキとエンジン出力を統合制御して、車体の安定性を取り戻す。つまりESCは、運転スキルが未熟でも、安全なドライビングを実現するための自動制御装置とも言えるだろう。

事故を防ぐクルマの神経網

ESCは、主に5種類のセンサとECU(電子制御ユニット)から構成されている。

  • 1. ヨーレートセンサ/クルマの垂直軸まわりの回転角、つまりクルマが曲がろうとする割合と横方向の加速度を測定する。
  • 2. 加速度センサ/進行方向の速度変化を測定する。
  • 3. スロットルセンサ/エンジン出力を測定する。
  • 4. 操舵角センサ/ハンドルの角度を測定する。
  • 5. 車輪速度センサ/4輪それぞれの速度を測定する。

ESC搭載車の走行中には、これらのセンサが1/100~1/1000秒といったスパンで、データをECUへ伝え続けている。ECUはそこから車両の動きを計算し、予定進路との比較を行う。この比較結果にズレが生じた時、システムは自動的に車輪のブレーキ圧を個別制御し、また必要に応じてエンジンパワーを引き下げる。これらの自動統合制御によってクルマを“曲げ”、その回転運動で横滑りを打ち消しているわけだ。
ESCの予防安全効果はきわめて高く、単独事故の発生率を44%減少させるとの実証データも出ている。そこでアドヴィックスではボッシュやコンティネンタル・オートモーティブと共にESC普及委員会を結成し、啓蒙と普及に務めてきた。そんな活動の成果もあって、ESCは世界各国で義務化が進み、日本でも2012年から段階的に義務化が始まっている。2018年2月24日以降に型式認定を受ける自動車には、完全搭載することが義務づけられている。

しかしまだESCはゴールではない。今後の予防安全技術開発は、プリクラッシュセーフティシステム等の先進安全自動車ほか、究極の安全を実現するために、進化を続けていくことになるだろう。